関節モビライゼーション(Joint mobilization)
関節モビライゼーションとは
関節モビライゼーションの定義は様々存在します。
なので、このホームページでは、『疼痛・可動域制限を改善を目的とした、関節に対する高速低振幅以外の徒手的操作技術のこと』とさせてもらいます。
ポジショニング
- 疼痛改善目的の場合 :現在の静止肢位・治療肢位
- 可動域改善目的の場合 :静止肢位・治療肢位
(治療肢位・静止肢位・現在の静止肢位はこちらを参照⇒用語解説)
可動時の注意点
- 必ず治療面に対しての並進運動を行う。
(並進運動はこちらを参照⇒用語解説) - 可能な限り固定手・可動手共に関節の近位部を把持する。
- 体重移動で操作し、手は極力リラックスさせることで関節包内運動を感じる。
関節モビライゼーションの効果
1.機械的効果(mechanical effects)
- 制限組織の伸張
- 関節内癒着の剥離
- 関節アライメントの矯正
- 関節包内運動の円滑化
2.神経生理学的効果(neurophysiological effects)
- 疼痛抑制効果
- 筋緊張抑制効果⇒マッスルガーディングの解除にも有効
(マッスルガーデニングの詳細は⇒用語解説参照)
3.栄養・循環に対する生理的効果(nutrition/cardiovascular effects)
- 関節軟骨栄養供給促進
- 血行/代謝改善
- 関節軟骨の修復促進
4.心理的効果(psychological effects)
- 徒手接触による不安・過緊張の軽減
※いわゆるプラシーボ効果
関節モビライゼーションの禁忌
絶対禁忌(絶対に実施してはいけないもの):
- 腫瘍性疾患
- 脊髄や馬尾神経の損傷
- 1つ以上の頸椎神経根が損傷を受けているか、2つ隣接した腰神経根が損傷を受けているとき
- 関節リウマチの頸椎
- 急性炎症性関節炎または腐敗性関節炎
- 重度の老年性骨粗鬆症
- 脊椎すべり症・分離症を有している関節
- 過剰運動性(hypermobility)有している関節
相対禁忌(絶対に実施してはいけないわけではないが、細心の注意を要すもの):
- 神経学的兆候が存在するとき
- 関節リウマチの胸椎・腰椎
- 老年性の骨粗鬆症
- 脊椎すべり症・分離症を有している関節以外の分節への治療への治療時
- 脊柱に関して、過剰運動性(hypermobility)を有している関節以外の分節への治療時
各学派が提唱している関節モビライゼーション
関節モビライゼーションには下記のように、学派によって様々な方法があります。
- グレードⅠ:緩み(loosening)
関節の引き離しの増加が関知されずに引き起こされる、極めて小さい牽引
関節かかる正常な圧迫を取り除くことができる
- グレードⅡ:緊張(tightening)
たるみ域(slack zone)の中で『関節を囲む組織の緩みがとれる極めて小さい抵抗感が生じるポイント』から、次に組織がピンと張るまでの範囲を超え、移行区域(transition zone)という抵抗感が感じられる範囲の最後に生じる顕著な抵抗(first stop)までの動き
- グレードⅢ:伸張(stretching)
first stopから更に可動させることにより組織を伸長させる動き
※グレードⅠからⅡの移行区域の手前までの可動は疼痛緩和を目的に、神経生理学的効果・循環の改善を狙って施行します。その中で、呼吸に合わせて移行区域の手前までの牽引を加え、呼気時にグレードⅠまで力をゆっくりゆるめていく牽引テクニックをインターミッショントラクション(intermission tranction)と呼びます。
※グレードⅡのfirst stopまでの可動は筋スパズム可動域制限の改善やリラクゼーションを目的に、神経生理学的効果・循環の改善を狙って施行します。
※グレードⅢは可動域改善を目的に、主として機械的な伸張刺激を狙って施行します。
※slack zoneの最後に生じる極めて小さい抵抗が生じるまで(=移行区域の手前まで)をグレードⅡ、それ以降をグレードⅢとする考え方もあります。
②振幅:
- グレードⅠ:可動域初期で行われる小さい振幅
- グレードⅡ:可動域内しかし最終域に達する前(全可動域の中間くらい)に行われる大きい振幅
- グレードⅢ:可動域週末までで行われる大きい振幅
- グレードⅣ:可動域終末までで行われる小さい振幅
※グレードⅠ・Ⅱは筋緊張の低下や疼痛の緩和を目的に、神経生理学的効果・循環の改善を狙って施行します。
※グレードⅢ・Ⅳは可動域改善を目的に、主として機械的刺激を狙って施行します。ただし、振幅が加わっているため持続的伸張と異なり、神経生理学的効果も狙うことが出来るとされています。
③斬進的振幅:
伸張と振幅の混合して用います⇒可動域の中間まで伸張した後に、更に押し込むような漸進的な振幅を可動最終域まで数回加えます。
※漸進的な振幅を用いることにより、不快感無く可動域改善に有効な場合があるとされています。
等尺性収縮を用いた関節モビライゼーションです。
⑤運動併用モビライゼーション(MWMs:mobilization with movement)
関節を動した際に疼痛が出現したり、可動域が制限される際に適用となります。
可動域制限に関して、他の①~④がjoint playを評価して過少運動性が認められた際に実施するのに対し、MWMsはセラピストが様々な方向へメカニカルな負荷を徒手的に加えた状態で関節を動かしてもらい、痛みや制限が無く運動が可能な負荷が見つかれば、それを治療として採用するという事になります。
上記の様に様々なモビライゼーションがありますが、実際にどの方法を用いるかは、治療目的であったり、患者の反応によって選択していきます。
例えば、イリタブルな部位における疼痛の改善目的であれば、振幅のグレードⅠ・Ⅱを用いる、あるいは持続的伸張Ⅰ・を用いることになります。では、振幅か持続的伸張のどちらを用いるかというと、患者の反応が良さそうなのを用いるということになります(振幅のほうが神経生理学的効果を狙いやすいとする文献もあります)。
(イリタブルの詳細は⇒用語解説参照)
関節モビライゼーションの手順
可動域の改善を目的とした関節モビライゼーションの大まかな流れを記載しておこうと思います。
他動運動テストでエンドフィールを評価する。
その際、靭帯・関節包性であった場合は適応かもしれない。
あるいは、筋性であった場合に筋へのアプローチを施行した後に再評価すると、靭帯性・関節包性のエンドフィールに変化しており、適応となるかもしれない。
※エンドフィールが靭帯・関節包性であると思われても、若干の反射的短縮が存在している可能性があるので、PIRを試験的に施行して完全に筋性の影響を除去した状態でモビライゼーションを試みることが望ましい。
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関節副運動テストを実施し、過少運動性が確認された場合は適応と判断。関節モビライゼーションを試みる。
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関節包パターンが認められているならばLPPでの関節モビライゼーション(離開)を施行。
非関節包パターンであるならば、LPPや治療肢位での関節モビライゼーションを施行。
(関節包パターン・非関節包パターンの詳細は⇒用語解説参照)
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再評価
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得られた可動域内での自動運動
↓
可能であればセルフモビライゼーションを指導
技術向上のために
PIRなど簡単で書籍だけで習得できる徒手理学療法テクニックがある一方で、関節モビライゼーションに関しては実技講習に参加して、関節を動かす感覚や力加減などを学ぶ必要があると思います。
講習会は『海外における総合型の学派』であったり、『日本徒手理学療法学会』『理学療法科学会』などで学ぶことが可能なため、興味がある方は是非参加してみてください。
また、関節モビライゼーションがどんなものかを詳しく調べたり、講習会の復習をしたりが目的であれば教本もおススメです。
関節モビライゼーションについて記載された教本は、部分的に記載されているものも含めて無数に存在しますが、その中でも下記の2点がおススメです。どちらも、『学派』という垣根を越えて関節モビライゼーションを学べる内容となっています。
執筆された方は、膨大な数の学派の徒手理学療法を学んできた方で、それらを統合して治療を展開されている日本の徒手理学療法における第一人者だと思います。
一冊の本に徒手療法の全てを詰め込むには限界があり、内容的には関節モビライゼーションを中心に、臨床でよく使用される手技について簡潔に解説されています。四肢のみならず脊柱に関してもバランスよく手技が記載されていたり、徒手療法だけで完結するのではなく、その効果を持続させるためのセルフエクササイズや生活指導の方法にもきちんと言及している点も良書だと思います。また、、DVDも付属しているため動画を通して手技を理解することも出来ます。
なので、『関節モビライゼーションを含めた治療展開がどんなものかを手技の観点から調べたい方』におススメです。
逆に『徒手理学療法におけるエビデンスを収集したい』であったり、『関節モビライゼーションだけでなく徒手的理学療法の全てを手技の詳細が記載されている本が欲しい』という人には内容が不十分と感じてしまうかもしれません。
また、執筆された方は『症例別!徒手的理学療法の実際 』や『症例別!徒手的理学療法評価と治療 Part-2 』というDVDをジャパンライム社より発売しています。文字通り、様々な疾患のクライアントに対して実際に治療する場面を見ることで、症例別の徒手理学療法を学習することが出来ます。
ただし、クライアントの評価⇒治療⇒再評価が繰り返されることが主である映像なので、それらを逐一解説して欲しかったりする人には向いていないので注意してください。
研修や教本により手技は出来るようになってきたけど、それらのピースをどのように臨床で繋ぎ合わせていくかが分からないという方には、クラアントとの生のやり取りを目の前で見学している様な映像となっているためお勧めです。
『パリスアプローチ』と記載されていますが、具体的な手技の方法論に重きを置くのではなく、筋骨格系理学療法におけるエビデンスを幅広く集積した内容となります。その内容は『パリスアプローチをするために参考になる』というのではなく、この分野に携わるた理学療法士全てに参考となる内容です。
徒手理学療法の講習会では実技に多くの時間が割かれる一方で、それらの手技の科学的根拠が詳しく解説される機会は少なかった場合に参考になります。
例えば、このページに記載されている『モビライゼーションの効果』に関して、『腰・骨盤編』では評価と適応では14ページにもわたって現状や根拠が記載さています。
また、『実践編』では脊柱に対する評価から治療までのフローチャートが詳細に載っています。このページには『関節モビライゼーションの手順』と称して簡単に紹介していますが、実際には複数の評価から様々な考察を通して治療を選択する必要があり、その辺りの情報が分かりやすく整理されています。